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​ブタの腸内細菌叢と生産性

〜ブタも腸活で元気に〜

学術指導担当(ブタ)(予定) | 摂南大学 井上亮

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2011年頃からヒトの腸内細菌叢研究が活発化し始め、その勢いは現在でも衰える様子はありません。その結果、ヒトでは腸内細菌叢が腸の病気だけではなく、全身の疾患にも関わることが明らかになり、各種疾病の治療・創薬のターゲットとして期待されるようになってきました。ブタでは、2016~2017年頃から腸内細菌叢に関する研究が活発化し、繁殖母豚や肉豚の生産性と腸内細菌叢との関わりが次々と示されています。こういった状況から、近年では腸内細菌叢がブタの生産性の指標(バイオマーカー)になり得るとも考えられるようになってきました。

例えば、繁殖母豚では、日本国内の年間離乳頭数の多い農場(27.69頭/年)と少ない農場(19.33頭/年)の妊娠豚の腸内細菌叢を比較したところ、両者が明確に異なり、セルロース分解細菌であるFibrobacterという細菌と、短鎖脂肪酸を作り出す細菌の占有率が年間離乳頭数の多い農場の方が多く検出されることが報告されています。一方、Streptococcus属やFusobacterium属といった一般的に有害とされる菌群の占有率は離乳頭数が少ない農場の方が高値でした(Uryu et al. 2020, Microorganisms)。海外の研究でも繁殖成績の良い母豚と悪い母豚では腸内細菌叢の構成が異なることが報告されていますが、現状得られる研究成果で考えると、Fibrobacter属とStreptococcus属が繁殖母豚の成績の指標となる腸内細菌として有力な候補といえそうです。

肉豚でも飼料効率や増体重が良いグループと悪いグループでは腸内細菌叢が異なることが多くの研究で示されています。繁殖母豚と同様に現状で得られる研究成果で考えると、Prevotella属とLactobacillus属が少なくとも若齢の肉豚では生産性の指標となりそうです。実際、我々がプレバイオティクスの一種を離乳直後から給与したところ、給与3ヶ月後にはPrevotella属とLactobacillus属の占有率が対照群よりも有意に高値となりました。この肉豚の出荷までの離乳後死亡率は対照群の約半分、出荷日齢は対照群では平均で11日間短縮され、生産性が向上しました(Inoue et al. 2021, Pathogens)。

今回紹介した以外にも数々の研究成果が報告されており、ブタでは生産性に腸内細菌叢が密接に関わっているのは間違いないと言える段階にあります。良好な腸内細菌叢は良好な免疫系をつくるので、減投薬畜産の実現に大きく寄与できるでしょうし、良好な腸内細菌叢は飼料効率の向上や離乳頭数の増加にも繋がります。腸内細菌叢を意識した飼養による生産効率の向上は今後の養豚に欠かせない重要な要因となるでしょう。

 

一方で、「腸内細菌叢が重要なことはわかったが、どうやって調べて活用すればばよいのか?」という方もいるでしょう。一般社団法人「産業動物細菌叢評価・活用機構」では、産業動物、特に家畜の腸内細菌叢を分析し、必要に応じて我々専門家がアドバイスすることができるような仕組みになっています*。是非、この一般社団法人を活用して、腸内細菌叢を意識した飼養、すなわちブタの「腸活」を実践して頂ければと思います。

*専門家のアドバイスを受けるには一定の条件を満たす必要があります。詳しくは利用規約をご確認ください。

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